まるで料亭のような鱧(はも)の味を、手軽に自宅で。道の駅が手掛ける『黄金の焼鱧だし』。
豊前の北には、周防灘が広がっている。周防灘は海産物の宝庫で、ワタリガニやカキ、海苔、アサリ、コウイカ、エビなど、季節ごとに様々な海の幸が楽しめる。
中でもこの地域で古くから水揚げされ、親しまれてきたのが『鱧(はも)』だ。
鱧と言えば大分県中津市や京都・大阪などが有名だ。特に京都では夏に欠かせない高級魚として、料亭や割烹を中心に親しまれている。実はこの鱧、もともとは大分県中津市の料理人が調理法を編み出したそうだ。
鱧は小骨が多いため、皮一枚を残して骨に包丁を入れる“骨切り”が必要になる。これは熟練の料理人でも難しい技術と言われる。また淡白で上品な身は、香りを活かす味付けも難しい。ゆえに限られた地域でのみ食文化が発達してきた。
豊前市は中津市に隣接しており、昔から水揚げされた鱧を中津に卸してきた歴史がある。近年になり、中津に卸すだけでなく、豊前でも加工品などで積極的に活用しようという動きがみられるそうだ。
今回は、その鱧を使った加工品『黄金の焼鱧だし』を販売している、道の駅 豊前おこしかけの楳澤(うめざわ)さんにお話しを伺った。

◆自宅で料亭のような味が楽しめる『黄金の焼鱧だし』
『黄金の焼鱧だし』は、焼いた鱧の骨の他、昆布や椎茸、唐辛子などをブレンドした出汁パックだ。お湯でさっと煮だすだけで、料亭のお吸い物のような上品で奥深い出汁が取れる。
普段ご自宅で出汁パックを使われることも多いかと思うが、まったく同じようにいつもの料理にも使えるため、使い勝手もいい。
「鱧を使った出汁パックって、日本でこれだけみたいですね。食文化も関係しているのかもしれませんが、鱧の加工品自体が多くないみたいです」
ちなみに私も出汁を取ってお吸い物にしてみたが、あまりの香りの良さに驚いた。ただ出汁を取って、少しお醤油を足しただけなのに、まるで一流料亭の味。こんな味が自宅で手がるに作れるなんて。

◆余った骨の活用方法を模索したことが、商品化のきっかけ。
鱧は、骨から上品な出汁が出る。ゆえにお吸い物や土瓶蒸しなどにされることも多い。しかし鱧の骨は硬いため活用が難しく、豊前の漁協ではほとんどの骨が廃棄されていた。
「骨や頭の部分は捨ててしまっていました。もったいないですよね。せっかく骨からイイ出汁が出るなら、なんとか活用できないか、ってところから商品開発を始めました」
楳澤さんは『もったいない』と仰ったが、鱧に関しては本当にもったいない限りだ。鱧の特徴である出汁は、身より骨のほうから出る。これまでは、宝の山を捨てていたと言っても過言ではない。

◆“香り”が製品化のポイント。
「製品化で一番難しかったのは、やはり香りです」
鱧は香りが命とも言える魚だ。鱧の骨を使えば、それだけで自然と良い香りの出汁が出そうに思える。
「鱧は香りや出汁がいい反面、煮だし過ぎてしまうと生臭みも出やすいんです。なので、薬味に唐辛子を加えることで、鱧特有の生臭みが気にならないように工夫しています」
確かに、私もこの『黄金の焼鱧だし』で出汁を取ったとき、最初は失敗した。煮だす時間は1~2分となっているが、5分ほど煮てしまった。その結果、独特の匂いが際立ってしまったのだ。その後2分ほどで出汁を取り直したところ、臭みは全く気にならず、美味しい出汁が取れた。

◆色んな使い方ができるのも魅力。
『黄金の焼鱧だし』で出汁を取るなら、まずはお吸い物!…と思っていたが、他にはどんな使い方ができるのだろうか。このあたりも楳澤さんに伺ってみた。
「けっこう万能で、どんな料理にも合いますね。例えばうどんや煮物、唐揚げの下味、出汁巻卵、炊き込みご飯、天つゆとか。東京のほうの居酒屋さんで、おでんの出汁に使ってくれているところもあります」
そんなに幅広く使えるとは。試しに出汁巻卵を作ってみたのだが、いつもより香りが豊かで、とても上品に仕上がった。
「意外と使い勝手がいいから、お店でまとめてたくさん買ってくださる方もいらっしゃいますね」

「出汁って、各家庭で使い慣れているものがあると思います。新しいものってなかなか手を出しにくいですよね。でも『黄金の焼鱧だし』は他にない鱧の上品な風味を楽しめるので、普段の出汁とは別物として試して頂きたいです」
確かに私も、自宅では長く使っているあごだしの出汁パックがある。お味噌汁などは“家庭の味”があるので、出汁を変えるのは意外と勇気がいる。なので、出汁をすべて変えるというよりは、「たまには鱧で出汁を取ってみようか」と使ってみるのがいいかもしれない。
「商品が生まれたきっかけは、捨てられていた骨を『もったいない』と思ったところから。ものを無駄にしないという精神も、この商品から感じてもらえれば嬉しいです」
なかなか自宅で味わう機会のない鱧(はも)。その香りを手軽に楽しめる『黄金の焼鱧だし』を、ぜひ試していただきたい。



