手作業で、心を込めて丁寧に作られる、あたたかな『森の学校』の木工品たち。

豊前市の市街地から、山手のほうへと車で20分ほど走ると、風景はがらりと変わる。風光明媚とは言いすぎかもしれないが、美しい山々と綺麗な川、そして田畑に囲まれ、どこか市街地よりも落ち着いた空気が心地よい。
住所で言えば『合河』という地域。ここに、今回取材で訪れた『森の学校』と『たんぽぽ舎』はある。就労継続支援B型にあたる事業所で、こころや体に病を持った利用者の方々が自分らしい生活を送れるよう、支援を行っている。特に森の学校では木工品やペレットなどを作っており、自然に触れる作業を通して自立支援をされている。
森の学校から少し離れた場所にある『たんぽぽ舎』は、木工品の細かな加工などの作業を行う場所となっている。

私が初めて『森の学校』の木工品を見たのは、豊前の道の駅だった。
子供用の積み木だったのだが、風合いは手作りそのもので、私の自宅にある量産品の積み木とは全く違った。丁寧に削られたカドは優しく、塗装のない無垢な色味はどこか落ち着く。月並みだが、『あたたかい』という言葉がぴったりな積み木だった。「子供が生まれた友人にプレゼントしたい」と思った。
今回は『森の学校』の理事長である舟橋さんと、『たんぽぽ舎』で利用者さんたちのサポートをされている松田さんにお話しを伺った。

◆森の学校は、こうしてはじまった。
「小さいころから、木の枝で椅子を作りたいと思ってたんです」 と話してくださったのは、舟橋さん。森の学校は、舟橋さんの個人的な活動から始まったそうだ。
「はじめは廃校の一室を借りて、そこで木の椅子を作り始めました。たまに見に来てくれる人もいて、だんだん一緒に椅子を作るようにもなっていった。もちろんその頃は個人的にやっていただけなので、収入もありませんでした」
一人、また一人と一緒に作業をする人が増えていったそうだ。集まった方には、こころや体に病を持っていた方が多く、その作業風景を見た市役所の方が「やっていることは福祉施設と同じ。正式に許可を取ってはどうか」と勧めてくれたそうだ。
こうして、自然と集まってきたメンバーたちによって『森の学校』が生まれた。今は職員と利用者の方々を合わせて40名くらいになったそうだ。

◆出来ないことを支え合う。人を信じる。
「最初は一人から始まりましたが、色んな人がチカラを貸してくれて、今の形になりました。僕は、人を信じることを大切にしています。僕も忘れっぽかったり、出来ないこともたくさんある。でも、自分が出来ないことは、いつもまわりの誰かが助けてくれます」
職員や利用者の方々それぞれに個性や長所があり、得意分野を活かして支え合いながら運営していると教えてくれた。
「利用者のみなさん、出来ることと出来ないことがあるので、支え合いながら作業をしています。例えばある人は木工品の組立や仕上げ、またある人は表面の磨き上げ、というように」

◆心を込めて、丁寧に作られる木工品たち。
『たんぽぽ舎』では、松田さんに案内していただきながら、実際の作業場を見せて頂いた。木の香りが広がる作業場では、皆さんそれぞれが自分の作業に、丁寧に没頭していた。
木工品の写真を撮影させてくださいと伝え、積み木やカッティングボード、くつべらなどを持ってきて頂いた。驚くのは、その手触り。カッティングボードは私の自宅にもあるが、表面は少しがさついた手触りで、端は手に優しくない。
しかし、森の学校で作られたカッティングボードは、表面も端も全て滑らかに仕上げられていて、手触りがとても気持ちいい。余計な塗装などもしておらず、木材そのものの風合いが生きている。
積み木も同じく。小さな子供が安心して遊べるように、表面はなめらかに磨かれ、カドは丸く仕上げられている。使う人のことを考え、やさしく作られたことが、手に取るだけで伝わってきた。

◆物が溢れた時代だからこそ、“想い”を大切にしたい。
世の中に物が溢れている今、何を基準に物を選ぶだろうか。値段、見た目、素材、環境への配慮。基準は人それぞれだ。
積み木にしても、カッティングボードにしても、くつべらにしても、ショッピングモールなどの商業施設に足を運べば、すぐに、しかも安く手に入る。

だからこそ、作り手の“想い”を大切にしたいと思う。どんな人たちが、どんな気持ちで、どうやって作っているのか。その商品に込められた想いを知るだけで、物の見方は大きく変わる。
『森の学校』の利用者の方々が、こころを込めて丁寧に作った木工品。自宅で使えば、愛着を持って長く使えるはず。大切な誰かへのプレゼントにも、きっといい。使うこと、贈ることが、利用者の方々を支えることにもつながっていくのではないだろうか。

森の学校
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